4歳年下の彼と描きたかった未来は消えて〜シングルマザーの私が取った行動の真意〜

イラスト:新倉サチヨ

ふとした瞬間に、昔すごく好きだった人の面影や言葉が頭をよぎることがありませんか。

胸の内にしまっておいてもいいけれど、その人を美化しすぎたり悲しみが恨みに変わったりすると心が不安定になりかねません。美しくも苦しい強烈な恋の記憶は「博物館」に寄贈してしまいましょう。当館が責任を持ってお預かります。思い出を他人と一緒にしみじみと鑑賞すれば、気持ちが少しは晴れるでしょう。ようこそ、失恋ミュージアムへ。

10年ぶりに「ママ」から「女子」に戻ることができた2年前の出来事

「断ち切る機会は何度もあったのにズルズルと会い続けてしまいました。彼を嫌いになったわけではないという弱さがあったのだと思います。私から断ることがなかなかできませんでした。それが恥ずかしくて、大宮さんの他には誰にも話していません」

名古屋市内にある洋食店に来ている。店内には大きめの音量でジャズが流れ、会社員の梶谷恵美さん(43歳)のか細い声は聞き取りにくい。

小柄で整った顔立ちの恵美さんは女子アナ風の美人だ。10年前に離婚をして、親の協力も得ながら小学生の息子をシングルマザーとして育てている。仕事にも誇りを持って取り組んでおり、そんな自分が「ズルズル」と交際をしたことが許せないようだ。

「30代の頃は子育てと仕事の両立に必死で恋愛に興味はありませんでした。すっかりママだったんですね。たまには家庭と会社以外の場所にも出かけてみようと思ったのは2年ほど前のこと。彼と出会ったのも異業種交流会のような食事会です」

4歳下の達郎さんの仕事は経営コンサルタント。パリッとしたスーツ姿と仕事に前向きな姿勢に好印象を持ったと恵美さんは明かす。彼女には「仕事が好きな人が好き」という確固たる傾向があるのだ。

「私自身、将来はこうなっていたいという目標を持って働いています。子どもがいて残業はできないので、できる工夫はすべてやっているつもりです。一つひとつの業務にかかる所要時間も把握していて、優先順位を設けています。でも、周りはそうではありません。私の3分の1ぐらいの仕事しかしていないオジサンが私の倍ぐらいの給料をもらっています。会社では成果主義的な考えは話せません。浮いてしまいますから。だから、会社の外で『やるべきことをやっている人がちゃんと報酬ももらうべき』という意見に共感してくれる人に会うとすごくうれしくなってしまうんです」

経営コンサルタントの達郎さんと意気投合しないほうがおかしい。LINE交換をして、「よかったら今度ゴハンに行きましょう」と誘ってもらったとき、恵美さんは「ママ」から「女子」に戻っていた。

次のステップに進みたかった私。彼の答えは「子どもとは向き合えない」

月2ペースで会うようになり、3カ月が過ぎた頃から恵美さんと達郎さんは交際するようになった。楽しいデートも多かったはずだが、恵美さんは「普通に会話ができた」「川沿いでお花見をした」と言葉少なに語る程度。達郎さんの良き面はあまり思い出したくない様子だ。情にほだされて、また達郎さんと会ってしまうことを未然に防ぎたいのかもしれない。

「半年ほど付き合ったところで、次のステップに進みたいと私は思いました。恋人のままでは、子どもを家で待たせて付き合いを続けなければならないからです。先があるならばしばらくは恋人同士でいいのですが……。彼に話したところ、『子どもとは向き合えない』と言われました。彼はとにかく仕事優先で、生活面での将来像は考えたくないようです。残念だなと思いました」

子どもと向き合えないからといって2人の関係がすぐに切れるわけではない。仕事が忙しかったこともあり、恵美さんは3週間ほど達郎さんとの間に冷却期間を置いた。

「次に会ったときに結論が出ました。彼の答えは『真面目に考えたけれど結婚はないかな』です。彼はうちの息子に会ったことすらないので私には理解できなかったけれど、仕方ないから(彼との関係を)終わりにしようと思いました。その後、私のほうから連絡をしたことはありません」

しかし、暗に別れを告げたはずの達郎さんのほうが寂しくなってしまった。彼はバツイチでワーカホリック気味の一人暮らし。悪く言えば勝手気ままな生活であるが、仕事や趣味で人に会っていないときは虚しさを感じることもあるのだろう。そして、自分のことを嫌ってはいない恵美さんに甘えたくなる。このような自分勝手で未練がましい男性がいるから、昭和の名曲『ラブ・イズ・オーヴァー』のような歌が生まれるのだと思う。筆者も他人事ではまったくない。

「私にも断り切れない弱いところがあるんです。延長戦になってしまいました。でも、彼はやっぱり結婚には向かえません。3カ月ほど延長して終わりになり、1年間は連絡がありませんでした」

彼のほうからも会話のボールを投げてくれた。それが楽しかった

これで終わりにすれば、達郎さんは恵美さんから決定的に嫌われることはなかったはずだ。しかし、今年に入ってからまた達郎さんからLINEが来た。昼ご飯を一緒に食べたところ、「2人の関係を真剣に考えたい」とのこと。その言葉を信じて、1年ぶりに男女関係が復活してしまったと恵美さんは恥ずかしそうにうつむく。

達郎さんの真剣さは口だけだった。「仕事が落ち着いたら子どもと会う機会を作る」などと言いながら、またしても3カ月が経過。恵美さんが呆れていたところ決定的な出来事が起きた。達郎さんの父親が病気になったので、恵美さんの息子にはやっぱり会えないとの連絡が来たのだ。

「なんだそれ?と思ってLINEを速攻でブロックしました。そうでもしないと私は次に進めないので良かったのだと今では思います」

失恋そのものではなく、「残念な時間」を2年間も過ごしてしまったことが悲しい、と恵美さんは硬い口調で語る。達郎さんと決定的に別れてまだ1カ月。心の傷が癒えていなくて当然だ。

同じ過ちを繰り返さないために、達郎さんとの交際を総括しておく必要はあると思う。恵美さんは、達郎さんが仕事熱心であることに加えて、「普通に会話ができる」ところが好きだったと明かす。どういうことなのか。最後に少し掘り下げておきたい。

「私は誰かと会話していると、相手が取りやすいボールを投げてあげることが多いのです。いいところを見つけて誉めてあげたり。相手の男性は楽しそうですが、私のほうは3回目ぐらいで疲れてしまいます。達郎さんは受け身ではなく、彼のほうからもボールを投げることで私を楽しませてくれました」

さらに、お互いが自立した社会人同士であったことも良かったようだ。仕事においては高め合い、気遣い合いながら会話を楽しみ、生活面では支え合えるような関係。確かに理想である。

自立した社会人だからこそ、仕事や生活のスタイルが固まり、変化がしにくいという欠点もある。達郎さんは気楽な一人暮らし生活を捨てることができず、恵美さんのほうは例えば名古屋から遠く離れたところに引っ越すことに難色を示すはずだ。しかし、結婚とは赤の他人との共同生活を築くことであり、変化を楽しむ気持ちがなければ成就しにくい。

今、恵美さんは前向きさを取り戻しつつある。好きな男性のタイプを変えられないのであれば、自分は何を変えることができるのか。それを考えるところから次の出会いが始まる気がする。

※登場人物はすべて仮名です。

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大宮冬洋(おおみやとうよう)

1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。

2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。自主企画のフリーペーパー『蒲郡偏愛地図』を年1回発行しつつ、8万人の人口が徐々に減っている黄昏の町での生活を満喫中。月に10日間ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験しつつ取材活動を行っている。読者との交流飲み会「スナック大宮」を、東京・愛知・大阪などで月2回ペースで開催している。

著書に、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)などがある。

公式ホームページ
https://omiyatoyo.com

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