彼女の結婚、別れと再会~不倫7年目に僕がたどり着いた答え~

イラスト:新倉サチヨ

ふとした瞬間に、昔すごく好きだった人の面影や言葉が頭をよぎることがありませんか。

胸の内にしまっておいてもいいけれど、その人を美化しすぎたり悲しみが恨みに変わったりすると心が不安定になりかねません。美しくも苦しい強烈な恋の記憶は「博物館」に寄贈してしまいましょう。当館が責任を持ってお預かります。思い出を他人と一緒にしみじみと鑑賞すれば、気持ちが少しは晴れるでしょう。ようこそ、失恋ミュージアムへ。

出会いは深夜の歌舞伎町。かわいい女子大生を路上でナンパして…

既婚男性と交際している30代40代の独身女性は多い。話していて「実は…」と切り出されるたびに「またか」と感じることすらある。既婚者同士のいわゆるダブル不倫も少なくない。しかし、既婚女性と長く付き合っていた40代の独身男性に会うのは珍しい。

メディア業界で正社員として働く佐藤秀之さん(49歳)は、タフガイな風貌だが物腰は柔らかい男性だ。インタビュー場所である東京・門前仲町の喫茶店で、フレンチプレスでいれたコーヒーの美味しさを誉めながら、4年前まで専業主婦の加奈さん(39歳)との関係がずっと続いていたと告白する。

「出会いは2000年にさかのぼります。当時、僕は31歳。とにかく仕事中心だったので、たまに自由な時間があるとめちゃくちゃな遊び方をしていました。そんな生活に他人を巻き込むことは避けたかったので、特定の女性と付き合うこともなく、勢いでナンパしたり合コンをしていたのです」

加奈さんとの出会いも新宿・歌舞伎町の路上だった。終電間際の時間帯に男友だちと2人でハシゴ酒をしていたところ、女性2人連れが駅の方向から歩いてきたのだ。電車で帰るつもりがないことは明らかであり、秀之さんは率先して「一緒に飲もうよ」と誘った。当時、加奈さんは大学2年生だった。

「最初はかわいい見た目が気に入りました。でも、何度か一緒に飲むうちに性格を好きになったんです。女子には珍しく群れないタイプで、女友だちにもズバズバと意見を言います。周囲から嫌われたくない、というありがちな考えがない自由奔放な人だと感じました」

秀之さんのほうも自由さでは負けていない。加奈さんが住む実家に気軽に遊びに行き、お母さんの手作り料理をお腹いっぱいに食べ、「男の子はたくさん食べるね」と喜ばれていたらしい。まるで学生のような行動だ。自分は加奈さんより10歳も年上の社会人であることを忘れていたのだろう。

加奈さんの就職と結婚で一度は離れた2人。しかし、2年後に引き寄せ合った

仕事優先の独身生活を続けたい秀之さんと自由気ままな末っ子の加奈さん。秀之さんの時間が空いたときに会うというゆるい交際を続けているうちに加奈さんが大学を卒業する時期となった。書くことが得意な秀之さんは加奈さんの卒業論文を代筆したと笑いながら振り返る。しかし、加奈さんが就職をすると忙しい秀之さんとは会う時間が少なくなっていった。

「就職をせずに結婚したいという空気を彼女は出していました。でも、僕は笑って受け流していたんです。この業界は30代のうちに必死で働かないと先はない、と思っていたからです。後悔? それはありません。彼女と結婚していたら、40代に入ってから経験した『谷』の時期を乗り越えられなかった気がします」

2年後、加奈さんは大手メーカー勤務の男性と結婚して会社を辞めた。お金持ちの家庭で放任主義で育てられた彼女は組織で働くことには向いていなかったのかもしれない。ただし、専業主婦の彼女は子どもを産み育てることも拒んだ。

「旦那さんの母親から子作りプレッシャーをかけられて悩み、僕のところに連絡が来たんです。2008年の冬のことでした。知らない仲ではないので再会して2回目でエッチをしてしまいました」

その後、週に1回は会い、「落ち着いて話そう」という言い訳でホテルに行くようになった。待ち合わせは加奈さんと夫が住む自宅の近く。顔を隠そうともしない彼女の大胆さに秀之さんのほうが戸惑った。

「旦那さんにバレて訴えられたらどうしよう。仕事に集中すべきなのにこんなことをやっていていいのか。そんな不安は常にありました。でも、悩んだときに僕を頼ってくれる彼女がかわいかった。彼女が独身だった頃よりも盛り上がったのは確かです」

自分たちの状況を三島由紀夫の不倫小説『美徳のよろめき』に重ね合せていたと明かす秀之さん。背徳は、恋愛や性愛にとって麻薬的なスパイスになりうるのだ。

正論を言う人が嫌いな僕。彼女は本音でも正論でもなく、直感で話す人だった

秀之さんは加奈さんに自宅の合いカギも渡すようになった。若い頃は特定の恋人を作らずに自由恋愛を楽しんでいた秀之さんだが、40歳手前で加奈さんと再会してからは他の女性に興味を持たなくなった。不倫の恋が刺激的だっただけでなく、2人は運命的なほど相性が良かったのだろう。

「彼女は年齢のわりに老成していました。会話していても『返し』が面白いんです。女の人は正論を言う人が多いように思いますが、僕はそれが嫌いです。その程度の話しかできないのかと興味を失ってしまいます。彼女は直感で話す人なので意外なことを言ってくれる。本音ともちょっと違う、直感トークです。面白かったなあ」

40代に突入すると、秀之さんは行き詰まりを覚えるようになった。夢中で働いてきた20代30代とは違って、仕事の先が見えてきた気がしたのだ。

「野球に例えれば、自分がどんなバッターなのかがわかって来るのが40代だと思います。ホームランバッターにはなれないけれど、打席には立ち続けなければならない。どう生きるのか。思い悩みました」

加奈さんとは10年以上の付き合いになる。しかし、彼女に夫と離婚してもらい、自分と再婚してほしいとは思わなかった。加奈さんのほうも結婚については一切口に出さなかった。

僕たちはお互いの人生を別々に歩んだほうがいい。やっとそう思えた

2015年、秀之さんはついに加奈さんとの別れを決意した。自分もすでに40代半ばで、人生の後半戦をきちんと生きなければならない。やはり結婚をしたい。けれど、加奈さんの人生を引き受ける気にはなれない。ならば、このままズルズルと付き合い続けていてはダメだ。

「もう会わないほうがいい、と僕から切り出しました。彼女は無言でしたね。それからすぐに引っ越して、変更した連絡先も教えていません。彼女の連絡先も消しました。未練はありません。僕たちはお互いの人生を別々に歩んだほうがいいと言い切れるからです」

すでに前を向いている秀之さん。加奈さんとの思い出は楽しくて愛おしい過去となっている。

「彼女は僕が持っていないものを持っていて、おそらく僕も彼女が持っていないものを持っていたのでしょう。心の弱っている部分をお互いが埋め合い、救い合っているような関係でした。働いていない人とでも戦友になり得るのですね。会うつもりはもうないけれど、彼女に対しては感謝の気持ちしかありません」

いま、秀之さんは結婚を前提に付き合える女性を探している。求める条件はただ一つ。会話をしていて面白いと感じることだ。加奈さんの面影を追っている、とは筆者は思わない。むしろ、加奈さんとの交際は秀之さんの人生の幅を広げたはずだ。

知的で前向きで働き者の秀之さん。近いうちに面白いパートナーを見つけて、幸せな共同生活に入ることだろう。その幸福の海の底には、加奈さんとの思い出が宝物のように静かに沈んでいる。

※登場人物はすべて仮名です。

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大宮冬洋(おおみやとうよう)

1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。

2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。自主企画のフリーペーパー『蒲郡偏愛地図』を年1回発行しつつ、8万人の人口が徐々に減っている黄昏の町での生活を満喫中。月に10日間ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験しつつ取材活動を行っている。読者との交流飲み会「スナック大宮」を、東京・愛知・大阪などで月2回ペースで開催している。

著書に、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)などがある。

公式ホームページ
https://omiyatoyo.com

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