タバコに「好き」と書いてアプローチした19歳の私〜あれからどの恋愛も長続きしなかった〜

イラスト:新倉サチヨ

ふとした瞬間に、昔すごく好きだった人の面影や言葉が頭をよぎることがありませんか。

胸の内にしまっておいてもいいけれど、その人を美化しすぎたり悲しみが恨みに変わったりすると心が不安定になりかねません。美しくも苦しい強烈な恋の記憶は「博物館」に寄贈してしまいましょう。当館が責任を持ってお預かります。思い出を他人と一緒にしみじみと鑑賞すれば、気持ちが少しは晴れるでしょう。ようこそ、失恋ミュージアムへ。

19歳。出会いは合コン。1本のタバコに「好き」と書いて、彼のタバコの箱に入れ直した

東京・荒木町の小料理店に来ている。今回、失恋の思い出を語ってくれるのは広告関連会社に勤務している池田純さん(29歳)。好奇心と行動力が全身から溢れているような美人だ。筆者が好きなタイプの女性なので、思わず雰囲気の良い店を予約してしまった。嬉しくなって飲み過ぎないうちにインタビューを終えねばならない。

昨年の春、失恋のショックでやけ酒をして倒れ、救急車で病院に運ばれるという失態をおかした純さん。姉や友人から厳しい叱責を受けたと顔を赤らめる。若いなあ。面白いエピソードが聞けそうなので、10年前から遡って恋愛話を聞くことにした。

「四国の女子大に通っていたので出会いがなかったんです。2年生のクリスマスまでにどうしても彼氏が欲しくて、先輩に頼んで合コンをしてもらいました。そのときに会ったのが啓介さんです。6歳年上で学校の先生をしていました。正直言ってタイプじゃないけれど、嫌な感じはしなかったので好きになることにしたんです(笑)。1本のタバコに『好き』と書いて、彼のタバコの箱に入れ直しておきました。そうするとうまくいきやすいと先輩に教えてもらったから。今思うと、浅はかなことをしていましたね」

確かにちょっと子どもっぽいアプローチ方法だが、これぐらいの明瞭さと積極性は社会人の男女にも欲しい。初対面の相手にもできるだけ感じ良く振る舞い、好意を持った場合は「好きです」「一緒にいて楽しい」とはっきり伝えるのだ。その後の関係がどうなるのかは相手の気持ちとお互いの状況に任せればよい。

私に振られたときのために「保険の婚約者」を作っていた彼。人間として許せない

幸運なことに、タバコの伝言に気づいた啓介さんからすぐに連絡が来た。2度目のデートで付き合うことに。合コンをホップとすれば、ステップからのジャンプという軽快な恋愛リズムである。教師をしながらスポーツコーチになる夢に向かっている啓介さん。一緒にいるときは純さんのことを一番に考えてくれた。しかし、大学を卒業した純さんが就職で関西に行った後、啓介さんとの関係に歪みが出てきた。

「何度も別れたいと思いました。彼は所有欲が強くて粘着質な性格で、電話に出ないと50件も着信があったりしたからです」

なんとか遠距離恋愛が続いていたが、別れを固く決意した出来事があった。啓介さんが九州でコーチとして採用されることになり、「ついて来てほしい」とプロポーズをされたのだが、純さんは気が進まなかった。啓介さんの浮気相手を知っていて、連絡先も交換していたからだ。

「その3年前に関係は切れたはずでしたが、念のために連絡してみたんです。なんと彼女は啓介さんとの結婚話が進んでいて、会社を辞めて引っ越す準備をしていました。でも、私と違って彼の実家に行ったことすらありません。彼は私に振られたときのために彼女を保険にしていたのだと思います。人間としてクソだなと思いました」

思い出し怒りで言葉遣いが荒れる純さん。嫉妬深くて束縛をしたりする人は、自分のほうが不誠実な行為をしがちだ。「一番」は純さんなのかもしれないが、その気持ちに殉じて孤独に耐えることができない。そして、他人の心情を平気で踏みつけにする。

仕事優先の考え方を理解し合える男性にしか興味を持てません

啓介さんと別れたとき、純さんはまだ25歳。その後、転職して引っ越した先の東京の酒場で2歳年上の男性と出会う。1年ほど彼に片想いをしていたが、交際には至らなかった。

冒頭の失恋相手である慎二さんと知り合ったのは今から約1年前。2歳年下の女友だちが会社の同期を紹介してくれたのだ。

「年末だったので、男2女2の忘年会を渋谷の中華料理店でしました。慎二さんの第一印象は『面倒臭そうな人』。仕事だけでなく、服などにもこだわりがあることが話の端々から伝わってきたからです」

働くことが大好きだという純さん。仕事優先の考え方を理解し合える男性にしか興味がないと言い切る。その点では、不動産業界で街づくりの仕事に没頭している慎二さんに心惹かれた。

「また会って話を聞きたいな、と思いました。だから今度は2人だけで新年会をしたんです。彼の仕事の話を聞くのはすごく楽しかったし、嫌なものや嫌だとはっきり言ってくれる人なので一緒にいて楽でした。忖度しなくていいから」

純さんによれば、初デートである「新年会」も渋谷で会い、3軒はしごした。慎二さんは「この店には行きたい、この店には行きたくない」という判断がはっきりしている。「どこでもいい」と言いながらも後から不満気になるタイプではない。純さんは気楽に過ごすことができ、終電まで時間を忘れて過ごした。

「次のデートで、『好きだから付き合おう』とはっきり言ってくれたのも嬉しかったです。もちろん、私のほうも『言われてもいい』という雰囲気を出していました」

失恋話を蒐集する本連載の主題とは関係がないが、純さんの軽やかな恋愛は女性読者の参考になるかもしれないのでポイントを振り返っておく。恋人が欲しい状況であれば、少しでも興味がある男性と会った場合は自分から積極的に食事などに誘う。初デートが楽しかったらそれを全身で表現し、「告白されてもいい」雰囲気を相手にわかるように出す。できれば2回目のデートで告白してもらう。交際できない場合は片想いを続けてもいいが、その関係にはこだわらずに次の出会いを探す。世の中には魅力的な人はたくさんいるので、失恋しても固執したり自己嫌悪に陥ったりする必要はないのだ。次に行こう、次に。

「早く結婚したい」「結婚しなくても子どもは欲しい」。ドロドロした気持ちを彼にぶつけた夜

純さんの話に戻る。恋愛をスタートすることは得意な彼女だが、肝心の相手選びと交際の発展的な継続は不得手のようだ。最初は楽しく付き合っていた慎二さんとも、すぐに「仕事の忙しさ」を理由に会ってもらえなくなってしまった。

「仕事優先なのは私も同じです。でも、1カ月もまったく会えないなんておかしいですよね。その頃に生理が来なかったりして不安になっていました。東京にいるのに少しの会う時間も作れないなんて仕事ができない人!と思ってしまいました」

純さんにも反省点がある。自分は年上だから寛大になろうと思い、「会いたい」「生理が来なくて不安」といった思いを慎二さんに伝えることなく、我慢してしまったことだ。久しぶりに会ったときに不満が爆発し、「早く結婚したい」「結婚しなくても子どもは欲しい」「すぐに結婚できないのであれば付き合い続けることに意味があるのかわからない」といったドロドロとした気持ちを感情的に慎二さんにぶつけてしまった。

「彼は少なくともあと2、3年は仕事に専念しなければ結婚は考えられないと言っていました。結婚するとしたら、子どもができなくても夫婦2人で楽しく暮らしていきたいそうです」

結婚しなくても子どもは欲しいと口走った純さんには、「オレの彼女がそんなことを言うとは思わなかった。もう顔も見たくない」との反応。交際して4カ月目でこんな話をする必要はないのだが、売り言葉に買い言葉というものだろう。そのまま2人は別れることになってしまった。

「納得がいかず、悔しくて、彼と会っていたお店を出た後にバーに入って飲み直したんです。そのまま記憶がなくなり、気づいたら病院のベッドでした……。恥ずかしいです。でも、彼との関係はどうにも腑に落ちなくて、別れた後も2、3回会ってもらいました。彼に対して未練があるのだと思っていましたが違いました。自分の感情をコントロールできなかったことが悔しかったのです」

野望があって仕事ができそうな男性と素直で可愛げがあるので将来性がありそうな男性

その後、複数の婚活アプリを利用して恋人候補の男性たちと会っているという純さん。今のところ不調のようだ。

「1歳年上の男性とは3回ほど会いました。でも、私があまり気乗りしないうちに彼が起業して忙しくなって会えなくなりました」

実践を通じて多くのことを学んでいる純さん。早く結婚して子どもを作りたい気持ちは変わっていないとしたら、43歳の既婚男性である筆者から忠告がある。酒場などで仕事について熱っぽく語る若い人は自分のことしか考えていない可能性か高いことだ。「今の仕事をやり切ったら結婚を考える」などと言っているかもしれないが、本気で取り組んでいる仕事をやり切ったなどと感じるのは60歳を過ぎた頃だろう。若いのにそんなことを言うのは、余裕がなくて自分が客観的に見えていない証拠だ。

次の恋愛には、「野望があって仕事ができそう」ではなく、「素直で可愛げがあるので将来性がありそう」な男性にも目を向けてほしい。一緒になることで自分好みの男性に育てていくのだ。その過程で、自分も良き方向に成長していることに気づくだろう。幸せな結婚が仕事を阻害するなんてことはあり得ない。むしろお互いの職業人生を高めることにつながる。

※登場人物はすべて仮名です。

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大宮冬洋(おおみやとうよう)

1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。

2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。自主企画のフリーペーパー『蒲郡偏愛地図』を年1回発行しつつ、8万人の人口が徐々に減っている黄昏の町での生活を満喫中。月に10日間ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験しつつ取材活動を行っている。読者との交流飲み会「スナック大宮」を、東京・愛知・大阪などで月2回ペースで開催している。

著書に、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)などがある。

公式ホームページ
https://omiyatoyo.com

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